「きゅい、きゅい、きゅい」
「あら、お花ちゃん。
お昼寝は終わったの?」

 さっきまで影の中で眠っていたお花ちゃんがスモールサイズで飛び出して胸に飛び込んできたわ。
寝起きは甘えん坊さんなの。 
毎回可愛いくて顔がデレデレしちゃうのよね。

「きゅぎゃ」
「ふふふ、そうね。
今日は私のお兄様達の為にお花ちゃんも協力してちょうだいね」
「きゅっぎゃ」

 胸を張るお花ちゃんの可愛らしさが何て暴力的なのかしら。

 今回の余興は聖竜のクロちゃんだけじゃないわ。
古竜のお花ちゃんにも協力をお願いしてるのよ。

 せっかくだもの。
S級冒険者として恥ずかしくない余興をしてみせるわ!

 もちろんこの依頼の報酬はご祝儀に上乗せよ。
家族を危険に晒さない為に籍を抜いたとはいっても、気持ちの上では愛する私の家族だもの。

 籍を抜く時だって先にちゃんと伝えておいたんだから。
お父様とお兄様達には泣かれたけれど。

 だから家族であるお兄様達のおめでたいイベントで報酬を受け取ったなんてケチはつけたくないの。
 
 S級冒険者はギルド本部からの連絡が直通で繋がる特殊な伝達方法があるのだけれど、生家とも連絡が取れるようにしておきましょう。
次からはギルド経由で依頼なんて、もったいない事をさせないようにしなくちゃね。

 それより今日の結婚式にダーリン(仮)はいるかしら?
いる、わよね?

 ここ5年、剣聖の噂は全然聞かないし、冒険者として活動もしていないみたいなのよね。
一応後見人になっているから、冒険者活動していればすぐに私にはわかるのよ。

 もしかしたら、もう冒険者を辞めたのかしら?

 それに・・・・愛する誰かと結ばれたかしら?

 もちろん頭ではわかっているのよ。
きっとそれならそれで私も幸せだって。
だって彼が安息の場所を築けたという事なのだもの。

 だからこの5年、私だって忘れようと努力したのよ。

 色々な所に行って心を無にしようとしたり、パーティーに紛れて男性との出会いを求めてみたり、あの王女様に求婚して列をなす王子様達を物色してみた事だってあったもの。
けれど無理だったわ。
長い初恋で嫌になっちゃう。

 だけど彼を探して想いをまた伝えようとまでは思えなかったの。

 ただでさえあの時私はダーリン(仮)の戸籍上の家族への傷を抉った上に、これ以上ない直接的な手段で彼の仲間を断罪したんだもの。
当事者である彼の意志を確認すらせずに。
しかも勝手に後見人になったし。

 その後元仲間達の悲惨な末路を知った彼は胸を痛めたんじゃないかしら。
もしかして、私を恨んだかしら?

 挙げ句私は今や知る人ぞ知る二つ名持ちのS級冒険者よ?

 ちなみに最近じゃ赤白の竜使いとか呼ばれているんだけど、断じて認めないわ。
お花ちゃんもクロちゃんも私のお友達だし、可愛らしい2頭に使われてるのは私の方よ!
もちろん喜んで下僕になっているんだから!

 今日みたいな時はお願いしてるけど、無理強いはしていないもの。
2頭共優しいからすぐに了承してくれるだけよ。

 まあそれはともかく、彼の前に私が現れて幸せになってるはずの彼の傷をまた抉ったりしちゃ可哀想でしょ?

 それに私が籍を抜いた家族と接触して万が一何かがあっても彼は胸を痛めそうだから、私も家族に自分から連絡しようとはしなかったの。

 まあうちの家族は物理で強いし、頭脳戦ならお母様が得意だから万が一すらないだろうけれど。

 それでも彼にとって私の家族は心の家族のはずよ。

 私の事で家族に何かがあれば、ダーリン(仮)なら自分は心配かけまいとして頼れなくなるわ。
それじゃ彼にとって心の家族になれなくなっちゃうじゃない?

 ほら、家族、とういかこの場合実家っていうのかしら?
何かあったり、ちょっと自分ていうのが揺らいでしまったりする時の自分のベースポイントとか、お寛ぎスポットとか、そういう無意識に足の向く場所ね。

 ダーリン(仮)にとってそういう場所に私の家族はなっていたはずだし、冒険者になった彼はちょっとそこらへん忘れてたと思うけど、あの時私の家族の所に転移させたからきっと思い出したはずよ。

 私の家族は適当だけど底抜けに明るくて、弱くて情けない所もある自分も大好きな、芯をしっかり持った心の強い人達だもの。
彼にとって必要な心の家族だって思い出させたはずだわ。

 本当は彼が戸籍上の家族と縁を切って私の家族の養子に入る事。
それが何よりもベストなのだけれど、彼は甘いからきっとよほどの気持ちの切り替えができなければそうしないでしょうしね。

「がうがうがう!」

 不意にクロちゃんが声を上げて到着をお知らせしてくれる。
通常サイズの時は声が野太いの。
うちの竜達はそんな声も可愛らしいのよ。

 ここは昔々の前世聖女だった時の私の家族が移り住んだ場所よ。
孤児だった私は寝食を共にする中で、家族になった彼らを心から愛していたわ。

 だからこそ冤罪にかけられた私はクロちゃんにお願いして彼らごと断罪しようとしたあの国の魔の手から逃がしたのよ。

「「ミルティア、お帰り!」」

 あら、ここまで声が届いたわ。
風魔法を使って拡声したにしても相変わらず声が大きいのね、お兄様達。

 視界が開けて見えたのは、誓いの言葉を終えて来賓にもみくちゃに祝われている2組の新郎新婦。

 あら?
本人達の家族と身近な親族くらいしか参加しない、内々の結婚式だと聞いていたけれど、広場にはこの領内の人達が勢ぞろいしていないかしら?

 しかも今日の主役達とその家族以外・・・・武装している、わ、ねえ?