「もう、お兄様達ったら水臭いわよね。
ギルド経由で私に合同結婚式の余興を頼むだなんて」

 私はクロちゃんの背に乗って家族のいる辺境領に向かっているわ。

 今朝になっていきなり生家の合同結婚式で王女、あ、今はあの子、王妃だったわね。
あの子の結婚パレードで気紛れにクロちゃんとやったのと同じ余興の依頼をギルド経由でお願いされたわ。

 S級冒険者への依頼ってギルド本部が手数料でそこそこぼったくるんだから、とっても高いのよ?
もちろん純粋に私の手元に入る報酬も高いのだけれど。
結婚式の余興にいくらつぎ込むつもりなのかしら。

 少なくとも次兄が元死の森の領主になった事も、2人の兄達が結婚する事も知ってはいたのよ?

 でもS級冒険者になった時に戸籍を離脱したの。
だから誘われない限りお兄様達の結婚式には出席しないつもりだったのよ。

 ・・・・誘って欲しかったけれど・・・・くすん。

 あら?
でも逆にどうやって向こうから誘うのかしら?

 そういえばダーリン(仮)の一件以来、まともに1ヶ所に長く留まったのだってあの王妃様が王女様だった時のお城くらいよね。

 滞在期間は半年くらいかしら?

 あの時はたまたまお花ちゃんとクロちゃんのお散歩に、山登りがてら岩や崖をよじ登って頂上目指してたのよね。
可愛い竜達は先に飛んで頂上に登ってたけど、その日はロッククライミングの気分だったから1人で登っていたの。

 そしたらいきなり何かが崖下から跳んでくるじゃない?
ちょうど岩場の出っ張りを掴んで崖にへばりついてたから背後を取られた形ね。

 仕方なくケルベロスのベロちゃんが落っことしてった、大きなトゲトゲの付いた首輪を岩場に映った自分の影から取り出して、ブン、て振り返り様に鞭のように振り回したわ。
狙い通り鋭いトゲトゲで剣みたいに首をスパって切断できたのよ。

 クロちゃんが私の影を亜空間収納化してくれてて助かったわね。
さすが私のクロちゃんだわ。

 どうでもいいけど、ベロちゃんは元気にやっているかしら。
ベロちゃんてばきっとお久しぶりのお散歩で感極まったのね。
ダンジョンから外に出てすぐに涙を流しながら私の掴んでた首輪から頭を引っこ抜いて戻って行ったのよ。

 あの時あの子の落ちた涙から生えた花は黒紫色でウゴウゴ波打ってて珍しい品種だったわ。
きっとお礼のつもりで生やしてくれたんだと思うと嬉しくて、ニコニコしながら摘んで持ち帰ったのよ。

 だけど夜中に花がモゴモゴ話し始めたのが気に入らなかったのね。
お花ちゃんに燃やされちゃった。

 ふふふ、話が脱線しちゃった。

 話を戻すけど、そのまま分離した狒々の生首と胴体と一緒に落ちてったアイツ、なんと王女様を脇に抱えてたの!

 これには後で人知れず背筋が凍ったわ。
だって首じゃなくて胴をスパッとやってたら、間違いなくあの子も殺っちゃってたもの。

「きゃあああああ!!」

 それはそうと、舞台で見た悪役令嬢がヒロインを階段から突き落とすシーンよりも真に迫った叫び声を上げたのは、王女様よ。

 でも私だっていつかそんな悲鳴を可憐に上げてやろうと機会を窺っているんですからね。
悪役令嬢だろうと、悪女だろうと、魔女だろうと、いつかやってやるんだから!

 なんて闘志を燃やしつつ、もちろん空中で狒々の黒い胸毛引っ掴んで自分の体を寄せたら、王女様を抱えて魔法で風と重力操作をして華麗に着地したわ。
かなりの高さだったけど、これでもS級冒険者ですもの。

 だ・け・ど!
ここで予想外な事態が発生したの。

 狒々の胴体が私達とほぼ同時に落ちたわ。
これは、まあビシャッと膝から下あたりが血で汚れたけど仕方ないわね。

 次の2つが問題。

 そう、狒々の生首と大量の血。
それが上から降ってきちゃったのよ。
生首は殴り飛ばしたんだけど、そしたら余計に、ねえ。

 王女様と一緒に頭からもろかぶりして、あっという間にいつぞやの鮮血の魔女が2人して出来上がったわ。

 これには金髪碧眼の王女様共々、呆然としてしまったわよ。

 しかも狒々の血がいつぞやの古竜のお花ちゃんの時と同じで落ちない!
正直お花ちゃんの時よりしつこくて、完全に色が落ちるのに王女様に誘われるまま、しばらくお城で過ごしたわ。

 きっとお城で1人だけ真っ赤なのが恥ずかしかったのよ。

 やっと色が落ちたかと思ったら、今度は2人して人外、というか、この世の世界じゃない者、というか、幽霊みたいなの?が、見えるんだもの。
驚きよね。

 王女様はびびりまくって泣き出すし、父親の国王は魔女の呪いか、とかいちゃもんつけてくるし、本当にムカついたわ。

 思わず国王の胸ぐら掴んでお花ちゃんとクロちゃんを影から召還して脅してやったわよ。

 本当に王女様を呪うついでにお城を吹き飛ばされるか、王女様が私と深夜の探検をして目を慣らすか選びなさい!てね。

 後でお城の王族しか閲覧できない禁書コーナーで見つけた古書に、狒々の血には染色やこの世に在らぬ者を見る効果があるって書かれていたの。
なるほどって納得したわ。
国王にも自慢気に見せたら禁書コーナーに立ち入った事で叱られちゃったから、今度はクロちゃんだけ呼んで脅しておいたわ。

 まあそんな感じで滞在してたら王女様と仲良くなって、結婚式のパレードで聖竜であるクロちゃんと一緒に光の魔法を使って祝福してあげたの。

 きっとお兄様達はそれを噂で聞いたのね。
まあ私に直接連絡しなかった事については不問にしてあげましょう。

 ギルドと違って私との直通の連絡手段が無かったのだもの。
すっかり忘れていたわね。