羨ましいだなんてことは、思ったことがない。

 むしろ、楽だった。

 俺は前から変に女子たちから人気だったし、群がってくる男子も多かった。

 人付き合いが元々苦手だった俺にとって、それは苦痛でしかなかった。

 だからずっと、物心ついたときからこんな格好をしている。

 そうやって卒業までずっと生きていくんだと、俺は思っていた。

 でも……。

『あれ?君は確か……水樹彼方君、だよね?』

 彼女は、話しかけてくれた。

 姫奈もあの時、体調を崩していたらしくそんな中でも俺に話しかけてくれた。

『あ、えっと……。』

 完全な陰キャを装っている俺はたどたどしい口調でそう返す。

 他の人はみんなこれで遠ざかっていった。

 だから今回も……と思っていたのに。

『私は咲間姫奈。って、私のことなんてどうでも良いよね。』

 そう言いながらあははと苦笑いを浮かべた姫奈。

 どうでも良いわけ……ないのに。

 だけど、そう言えない自分が悔しかった。

 この時に自分が頑なに人を避けて生きていたことを同時に恨んだりもした。