「こんな近くにおって、気づけてやれんかった。…いま思えば結構オレの前でも泣いとったし、女って分かってたら抱きしめてやってたわ」


「……お前は泣いてる女には誰にでもそーいうことするのか」


「いや?せえへんで?そない面倒なことオレがするわけないやろ」



意味深な発言と笑みを落として、赤矢は教室を出ていった。



「───爽雨さん!」


「瀧。これから深雨のとこ行くんだけど、おまえも一緒にくる?」


「はいっ」



そして無邪気な笑顔が増えた後輩。

そんな顔もできたのかと聞くと、「深雨さんのおかげです」と必ず返ってくる。


俺のうしろを追いかけてくる姿は健在で、俺との高校生活をかなり楽しんでいるらしい。


年が明けて、ほわっと白い息があがるほどの寒さに慣れてきた頃。

さすがに桜が舞う季節は見せてやりたいと、心のなかでいつも思いながら病院へ。



「あ、なんだ。お前も来てたんだ綾羽」


「もう少ししたら遼成と霊池も来るらしい」


「赤矢もだって。また今日も賑やかで深雨もゆっくりできないな」



ICU───集中治療室へ入ると、そのベッド脇の椅子には親友が先着していた。