だめだ、止められない。
唯一佐狐が叫んだけれど、赤矢も霊池先輩も、身を乗り出してまで迂闊(うかつ)に止めようとはしなかった。
それは大切な人を2人も失った瀧に対して、かけてあげる言葉が分からないからだ。
軽い同情だってできない。
自分も同じ目に遭ってからこそ、それは言えることだから。
「はっ…、ぐっ…!」
痺れが戻った右手はナイフを持っている。
そこに殺意と決意が加わったことで、瀧は確実に久遠 綾羽を押していた。
ドガ───ッ!!!
「綾都……っ!」
それでも彼は瀧を傷つけようとは一切しなかった。
避けられるところは避けて、食らうべき拳はしっかり受け入れて。
「…いってぇ…、瀧、すこし我慢しろよ、」
「───う”……っ!!」
お腹にひとつ、久遠くんのフォームから何まで完璧な蹴りが命中した。
ドサッとその場に倒れるけれど、瀧の覚悟はそんなものじゃないから。
すぐに起き上がって呼吸を整えて、鋭い目に変わる。
「はっ…、はぁ、」
「今のはおまえが俺の許可なく誰かさんに手ぇ出しやがった仕返しな」
「……なら…、おれだってある、」
「っは…!!」
ナイフを置いて向かって行ったかと思えば。
またその仕返しをするように、瀧の膝蹴りがダーツのど真ん中、ブルズアイを射抜くように入った。



