もう頭がぐちゃぐちゃだ。

いつからわたしの本当の名前を知っていたの。

どうしてキスなんかしてきたの。



「…泣いていたから、こうすると泣き止むんじゃないかって、」


「…なに…それ、」


「ってのは嘘です。…我慢、できなかった」



がまん……?
じゃあ瀧はずっと我慢していたの…?

ぜんぜんわからない、まったくわからないよ。



「おれは怒ってます。…約束を守ってくれなくて」



……そうだった。
今日の放課後って約束してたの。

瀧はちゃんと来てくれたのに、バックレてしまったのはわたしだ。



「でもそんなの許します。おれだって…同じですから」



居たたまれなくなって、首に巻かれたマフラーに口をうずめると。

そっと伸びてきた手がわたしを包み込んで、ぎゅっと抱きしめてくる。



「……たき、ごめん、ごめんね、…ごめん、」


「…どうしてあなたが謝るんですか。謝るのはおれのほうなのに」



理由なんかいっぱいありすぎて。

もうどれから謝ればいいか分からない。



「…やっと深雨さんって、呼べました」



わたしが知っているかわいい瀧が顔を出したような気がして、この瞬間だけでもホッとした───。