『深雨、深雨、もう俺にはお前しかいない。お兄ちゃんを頼ってくれるのは……もうお前だけなんだよ、深雨』
お兄ちゃん、わからない。
なんにも、ぜんぜん、まったく分からないよ。
わたしはいったい、だれを殺せばいいの───…?
久遠 綾羽とお兄ちゃんの関係はなに…?
久遠 綾羽は、本当に彼の亡くなったお兄さんなの……?
久遠 綾羽は───……だれ…なの……?
「ぅ……っ…、ぅぅ……っ、ぅ、」
「ぎゃはははははっ!!なっさけねェなァ水本!!ダッセェ!!こいつ泣いてやんの!!!」
どうして、どうしてナイフがないの。
いつも制服の内ポケットに入れていたのに、こういうときに限ってないんだから。
だけど、この涙は、この涙はね。
それがいま無くてホッとしてしまった自分に対して、情けなくて呆れて流れたものだった。
「そういやあの日も泣いてたよなァお前!!!惚れた女を俺に殺されて、その男をてめェは殺せなくてよォ!!なあ!!?」
やめて、もうそれ以上お兄ちゃんを侮辱しないで。
やっぱりわたしは妹としても情けない。
お兄ちゃんだって本当はわたしと同じで泣き虫だったんだ。
それにすら気づいてあげられなかったわたしは。
こんなにも悲しい出来事があったのに、最後まで隠させてしまったわたしは。



