久遠 綾羽はもういない。
そんなことに、どこかホッとしているわたしがいるなんて。
「はーっ、そろそろ戻ってもええかなぁオレ」
「え…?」
「今のRain shadowに。…今日、翠加がいたときみたいに楽しかったわ」
来てよかった───。
烏間 赤矢が水平線から顔を出す夕日を眺めながら、柔らかく放った。
思わず泣きそうになってしまったから、彼の顔を見ることはできなくて。
「ってことは、赤矢も爽雨くんに心を打たれたってことだよね」
「へ?心?」
「そう。この参謀の言葉って、めちゃくちゃ心こもってるから」
「…はは、確かに。せやな」
並んだわたしたちの前、赤く広がる海。
夢みたいで信じられなくて、わたしはうまく返事をすることができなかった。
お兄ちゃん、復讐は無理かもしれないけど、戻せたよ。
これがあなたが作り上げたRain shadowなんだね。
すごくすごく格好よくて強くて、あたたかい場所だ。
「───よォRain shadowども。揃いも揃ってまだ桃太郎ごっこなんかしてんのか?」
「っ…!!」
なんだろう、この悪寒は。
今までの平和で楽しかった雰囲気をぶち壊すどころか、最初から無かったようにまでしてしまった声は。



