村の近くまで来た頃には、もう辺りは真っ暗になっていた。夜空を照らしている満月の明かりだけを頼りに山を降り、ついに村の姿が見える。

「やっと帰れた!」

喜びで思わず泣いてしまいそうになる。豪華な着物も、お米すらない貧しい家だが、家族と暮らした思い出は詰まっている。その家に今から帰れるのだ。

紅葉が一歩村に近付いた時だった。一瞬にして、村が赤い炎に包まれてしまう。家が燃えていく嫌な匂いが鼻を刺激し、あちこちから悲鳴が聞こえてくる。

「……俺から逃げ出すから、こうなったんだ。俺だってこんなことはしたくない。だけど、紅葉が逃げたんだから罰は与えないとダメだろ?」

背後から強く抱き締められ、蕩けるような声で囁かれる。ヒノカグがここにいることに紅葉は悲鳴を上げてもがくも、それは無意味な抵抗だった。

「こんなこと、やめてください……!今すぐ火を消してください!」

「ダメだ。ほら、しっかり見ておけ。逃げ出したら、こんな風に人が傷付けられるんだ」