「あなたは人間。本来生きるべきところで命を終えるべきだと思うから……」

使用人はそう言った後、紅葉をキツく縛り上げている縄を切る。ずっと縛られていたからか、手足の感覚がおかしい。だが、これで逃げられる。

「ありがとうございます」

「お礼はいい。早く門から逃げて。他の使用人は私が止めるから」

紅葉はまだ感覚のおかしい足を必死に動かし、門まで走る。あの時、門に触れたことで拘束されてしまった。だが、その門は何故か開いている。使用人が開けてくれたのだろう。

門の外は全く知らない場所ーーーではなく、見覚えのある山の中だった。紅葉の村がある山である。

「これなら、村まで帰れる!」

紅葉は立派な屋敷を振り返ることなく、山を駆け降りていった。



木の枝で着物は擦れ、飾り紐は千切れてどこかへ行ってしまう。土で足や着物は汚れていくが、それでも紅葉は足を止めなかった。久しぶりの自由に心が嬉しさでいっぱいになっている。

「もう少しで村に着く……!」