今から五百年ほど前、この山の中にあった村は火事が起こって廃村となってしまった。火事が起きたのは真夜中を過ぎた頃で、誰も火など使っていなかった。そのため、火事が何故起きたのか誰にもわからない。

多くの村人が火に飲まれ、命を落としていった。生き残ったとしても酷い火傷に苦しみ、長くは生きることができなかった。

これは、そんな火事に隠された物語である。



夏の終わりを告げる鈴虫がリンと鳴き始め、山の木々が赤く染まり始めた頃、この村に住む十五歳の紅葉(くれは)は、今日も畑を耕し、朝から夕方まで働いていた。

「紅葉ちゃん、お疲れ様」

「明日もよろしくね」

汗を拭きながら笑う畑で働く人たちにペコリとお辞儀をし、「ありがとうございました!」と挨拶をして紅葉は帰る。

畑を耕すための鍬を手に持ち、紅葉は家へと帰っていく。太陽はゆっくりと沈み始めている。日が暮れてしまうと、自分の手のひらすら見えなくなるほど辺りは暗闇に包まれてしまう。そのため、早く帰らなくてはならない。