男は部下たちの嘆きの声を無視して彼女を振り返ると、律儀に頭を下げた。
「貴女の言う通りだ。まだ名乗ってもいなかったな」
再び顔を上げた男が、まっすぐに彼女を見つめる。
「私はリンデン王国、カセル騎士団のグランツ・フォン・ノイフェルトという。貴女の名前を聞かせてもらえるだろうか?」
魔女は戸惑いながら男を見つめ、かすれた声を漏らした。
「私に名前はありません」
* * *
彼女は両親から『お前』『それ』『あれ』と呼ばれて育った。
そんな呼び方をしなかったのは彼女を親友と呼んで笑う美しい王女だけ。
「貴女の言う通りだ。まだ名乗ってもいなかったな」
再び顔を上げた男が、まっすぐに彼女を見つめる。
「私はリンデン王国、カセル騎士団のグランツ・フォン・ノイフェルトという。貴女の名前を聞かせてもらえるだろうか?」
魔女は戸惑いながら男を見つめ、かすれた声を漏らした。
「私に名前はありません」
* * *
彼女は両親から『お前』『それ』『あれ』と呼ばれて育った。
そんな呼び方をしなかったのは彼女を親友と呼んで笑う美しい王女だけ。

