もふもふ魔獣と平穏に暮らしたいのでコワモテ公爵の求婚はお断りです

 惚れ惚れするほど美しい黒鹿毛に騎乗した男は、グランツだった。

 シエルは大きく目を見開いてから、勢いよく駆け出す。

「グランツ様!」

 グランツは彼女を受け止めるために馬を降り、両腕を広げて危なげなく恋人を抱きしめた。

「顔を見せる時間も取れなくてすまなかったな」

「お忙しいのはわかっていましたから。騎士団で風邪が流行った時は心配しました」

「魔法で見ていたのか?」

「はい。やめたほうがよかったでしょうか?」

「いや。君に隠し事はできそうにないと思っただけだ」

 二人の間にはイルシャとミュンがその場から離れるほど、甘く幸せな空気が漂っていた。