もふもふ魔獣と平穏に暮らしたいのでコワモテ公爵の求婚はお断りです

 年頃の娘だというのに香油も使わず、腰まで流しただけの髪は、暖炉の灰をかぶせたような鼠色。雑草のほうがまだ手に心地よいのではないかと思われるほど、艶がなくぱさついている。満足とは言いがたい食生活のせいで同年代の娘よりもかなり細いうえ、肌は青白く生気がない。

 輝きのない蒼氷の瞳は、騎士の血の色の瞳を受け止めきれず、彼の馬を映していた。

(この人はなにを言っているのだろう……?)

 他人と最後に接してから久しいために、彼女の表情はあまり動かない。

 しかし内心では、激しい動揺と混乱が渦巻いている。