もふもふ魔獣と平穏に暮らしたいのでコワモテ公爵の求婚はお断りです

 動けずにいた騎士のひとりが、グランツの前に降り立った大きな黒い獣を見て絶叫する。

 魔獣が空気を震わせて咆哮したかと思うと、果敢にもグランツに立ち向かおうとした騎士の身体を顎で捉えた。

 ばき、と人間同士の戦いでは聞くことのない鈍い音がし、鉄でできているはずの鎧がひしゃげる。

 突然の救世主の姿を瞳に映したグランツは、彼女が自分のよく知る獣だと気づいた。

「イルシャ……」

 イルシャはグランツを軽く見ただけで応えず、くわえていた騎士の身体を空に放り投げた。抵抗も許されずに地面に落ちた騎士の手足はあらぬ方向へ曲がり、もう動かない。