もふもふ魔獣と平穏に暮らしたいのでコワモテ公爵の求婚はお断りです

 グランツは目の前が霞むのを感じ、唇を強く噛み締めて無理矢理意識を保つ。

「は、早くやれ! 名誉が欲しくないのか!」

 オシュテルの必死な叫びが聞こえ、グランツはまた笑った。

(名誉だと? 祖国を裏切った者の言うことか)

 手負いの獣ほど恐ろしい生き物はいないということを、オシュテルの兵は思い知る。

 グランツから動く必要はないから、相手が動くのを待つばかりだったが、あまり時間は残されていなかった。

(さすがに血を流しすぎたな)

 感覚はずいぶん前から麻痺していて、痛みもつらさも感じない。今のグランツの頭の中にあるのは、背負った命の多さと、子供のように泣く恋人の姿だけだった。