イルシャを撫でてから、茶を淹れるために家へ向かう。
胸に込み上げる嫌な不安は、意図的に無視した。
* * *
「お別れは済ませてきたんですかね?」
夕方過ぎ、グランツが騎士団の宿舎に向かうと副団長のトーレイが話しかけてきた。
「嫌な言い方をするな。しばらく会えなくなると伝えただけだ」
「……そうじゃないと我々も困りますから」
「彼女を妻と呼ぶ前に死ぬものか」
グランツの表情は厳しく、トーレイの顔も強張っている。
彼はシエルに現状のすべてを伝えなかった。
国境のケベク砦からは、ワレス軍の総数が二万を超えると連絡を受けている。

