もふもふ魔獣と平穏に暮らしたいのでコワモテ公爵の求婚はお断りです

「さて、また茶を淹れてくれるか? ミュンのせいで身体が冷えてしまった」

「はい」

 グランツの言う通り、彼のシャツは水を跳ね散らかしたミュンのせいで濡れている。

 名前が聞こえたためか、呼ばれたと勘違いしたミュンが勢いよくグランツの腰に突撃した。

「こら」

 すっかり乾き、空気を含んでふわふわになった黒毛をグランツが撫でまわす。ミュンはうれしそうに甘えた声をあげて鳴き、溶けるのではと心配になるほど彼の手を舐めた。

 こうしていると普通の真っ黒な犬にしか見えないが、ミュンはイルシャの──魔獣の娘である。いずれ人々に恐れられる存在になるかもしれないと思うと、シエルは少し悲しかった。