もふもふ魔獣と平穏に暮らしたいのでコワモテ公爵の求婚はお断りです

 セニルースの城で暮らしていた頃、シエルはラベーラ以外の人間とほとんど顔を合わせたことがない。『親友さえいればいいでしょう?』とラベーラが他者を拒んだからだった。

 グランツとの逢瀬でずいぶんと人に慣れたといっても、シエルが慣れたのは人間ではなくグランツでしかなかったようだ。

(変な匂いにされているわ。私、どうなってしまうの……)

 庶民では手が届かない薔薇の香油も、シエルにとっては奇妙な香りに感じられる。何度となくむせたシエルは、やがて浴槽から引っ張り出されて、イルシャよりもふわふわの布にくるまれた。

「ちょっと、ちゃんとご飯を食べてるの? こんなに細い人、初めて見たわよ」