おかげで彼女に好意を抱いているグランツは、気づくとすぐそばにいるシエルに動揺したり、顔を覗き込まれて赤くなったり、触ってもいいかと尋ねられて硬直することになったのである。

 やがて煤の森に本格的な夏がやってきた。

 基本的には寒暖差の少ない地域だが、夏ともなるとやはり暑い。

 そのせいで、最近はイルシャとミュンに元気がなかった。彼らのふわふわの黒い毛皮は、太陽の光をめいっぱい吸収するようだ。

 ミディイルにちょっかいをかけに行くことも億劫になっているミュンが、シエルの手からこぼれ落ちる魔法の水を浴びて、弱々しい鳴き声をあげる。

「こんなことなら、川か泉のそばに住めばよかったです」