「ああ、俺も限界だよ、ハス……。っ、だめだ、もう我慢できない」
そう言った柳沢くんは、苛立たしげにコツコツコツコツ……とシャーペンで音をたて始めた。
「やっ!ま、待って!」
今にもかぶっている猫が外れそう。
まだ勉強会始めて三十分ぐらいしか経ってないのに。
「優しくするって約束、だよね……?」
望みをかけてそう確認するも、柳沢くんは辛そうな表情で首を横に振った。
「ごめん、やっぱその約束は守れない。優しくとか、無理」
「そんな……」
「今のあんたの様子見てる限り、優しく教えてたんじゃ日が暮れるどころの騒ぎじゃない。それに、この場にハスしかいないのにキャラ作るの、無駄にストレス溜まる」
だめ。怖い。声がとっても怒ってらっしゃる。
ああ、こんなことになるなら、家に来ないかなんて誘い、断ればよかった。図書館とか他に知り合いがいそうな場所なら、もうちょっと猫かぶったままでいてくれたかもしれないのに。
『優しく教える』なんて言葉、信じるんじゃなかった。
私は薄く目を閉じて、覚悟を決めるしかなかった。



