「何の科目持ってきたの?」


「とりあえず全部。数学からやろうかな」


「わかった。じゃあまずはこのページ一通り解いてみようか。わからないところがあったら後で順番に教えていくね」




お、柳沢くんが猫かぶりバージョンの声でしゃべってる。

二人のときにこのトーンで話されるの、ちょっと新鮮かも。


そんなことを頭の片隅で考えながら、私は数学の問題と格闘すること二十分。

どうにか解き終えて答え合わせをしてみると……。




「……」




あら不思議。丸が一個もない。


それを見た柳沢くんの王子様スマイルが、少しぎこちなくなった気がした。


……ちょっと待ってね、気を取り直して次のページも解いてみよう。


だけど次のページはもっと酷かった。

問題文は何回も読んでるのに、一向に手が動かない。

もしかしなくても、物凄くまずい。




「やなざわ、くん……。私っ……」




助けを求めて柳沢くんの顔を見る。

彼は既に笑顔を保てなくなっている様子で、頬がぴくぴくしていた。