柳沢くんの家に行ったのは、テスト勉強をしたあの日一回きり。

記憶を頼りに歩いて、見覚えのある家の前まで来た。


私は大きく深呼吸をしてインターホンを押した。

女性の声で返事があったので、柳沢奏多くんのクラスメイトですと名乗る。




「ごめんなさいね。あの子まだ帰ってきていなくて」




ドアを開けて出てきた女性は、柳沢くんそっくりの美人。たぶんお母さんなんだろう。




「家にいないんですか?」


「そうなの。明日から冬休みだから早く帰って来るかと思ってたんだけど……」




違和感がある。

まるで、柳沢くんが普通に学校へ行ったと思っているような口ぶりだ。

朝、普通に学校へ行くフリをしてどこかへ出かけたんだ。


……どこに?


うぅ、頑張れ、考えろ香田葉澄!


柳沢くんは、嫌なことがあった時はどこへ行く……?



その時、ふと思い出した。


『どこ行くの?』

『最上階』

『最上階って……展望台?』