「香田さんも座って?」
空き教室に入っても警戒して距離を取っている私に、柳沢くんは言う。
それでも動かないでいると、柳沢くんは大きくため息をついた。
「その反応からして、やっぱ昨日教室にいたのあんただったんだね」
その声は、昨日手紙を破り捨てていた時とよく似た、とっても冷ややかなもので。
「逃げ足速くてちゃんと確認できなかったけど、倒れてた椅子あんたの席のだったから」
「あ」
「ちっ、まあ確かにちょっと油断してた俺も悪いけどさ。あんたは覗き見が趣味なのか?」
気怠そうに頬杖をついて足を組んでいる柳沢くんは、いつもの優しくてキラキラな『正統派王子様』の雰囲気がすっかり消えてしまっている。
……やっぱりこれが柳沢くんの本性なんだ。
「で?昨日見たこと誰に言った?まあ、あんたが言いふらしたところで全員がそう簡単に信じることはないだろうけど、噂が広まるのは面倒なんだよな……」
「い、言ってないよ」
「は?」
「だから別に、誰にも言ってないって!」



