でも,今のはいやだ。

本当に。

自分勝手だけど,あんなすれ違いを眺めながら横入りするのは,嫌だ。

あ…

居た。

長く持たなかったのか,崩れ落ちるようにしゃがみこむ,琴音さん。

その背中が,実際よりずっと小さく見えて。

私は息を飲む。

片手だけを何とか壁に添えて,琴音さんは。

嗚咽を堪えるように,泣いていた。

声なんて,かけられるはずもない。

…今,流雨を引っ張ってきたら。

全部,解決するんじゃないのか。

琴音さんの悲しみ全部,未来ごと。

そう過ったけど,私は頭を振る。

それはきっと,すごく正しい。

でも……

2人のことは,2人のこと。

私には関係ない。

胸を揺さぶられながら,私は気づかれる前にと踵を返した。