阿久津くんが去っていった方向を、里香ちゃんがどこか遠い目で追う。
「あれ、結構怒ってたよ……七葉、謝った方がいいんじゃない?」
「ええ……」
怒ってた。怒ってるのかなあ、やっぱり。
里香ちゃんと話した、昨日の今日での出来事だったから本当にびっくりした。
今日も移動教室があることに気が付いた私は、里香ちゃんのアドバイス通り少しだけ……すこーしだけ、待ってみたのだ。鈴原くんに声を掛けるのを。
でも流石に声を掛けないで先に行くことは出来なくて、どうしよう、と思いながらいつもよりゆっくり準備をして。そろり、隣の様子を窺おうと目を上げた時にばっちり合ってしまった。鈴原くんと。視線が。
ぱちり。澄んだ瞳とかち合って、優しく微笑まれたらもう駄目だった。
反射のように「一緒に持っていくよ」と声を出しそうになり、一歩体を寄せたところで、視界の端に映りこんだのだ。ものすごい早歩きでこちらに向かってくる阿久津くんの姿が。

