はじまりは、なんてことのない、日常の一コマ。

強いて言うなら、彼と教室に二人きり。そんな状況は初めてだったかもしれない。


西日が射し込む放課後の教室。

確かに大半が帰宅している時間帯ではあったけれど、いつもなら部活終わりのクラスメイトがちらほらと帰ってくる時間で、けれどこの日は委員会終わりの私と彼しか居なかった。


「誰も居ないね……」

「ん……」


隣に立つ、言葉少なな彼を見上げると、彼はそのまま窓際まで歩いて行ってしまう。


とある机までたどり着いた彼は、そこに手をつくと、まだ入口で棒立ちのままの私を振り向いた。

そして、黄金(こがね)色の髪をさらりと揺らしながら小首を傾げる。どこか気だるげな視線を前髪の奥から送られると、ドキッと心臓が跳ねた。


「……やらないの?」

「ん!?」


トントン、と切り揃えられたまるい爪先が、私を誘うように机を叩く。そこは、私の席だった。


「プリント。やるんでしょ」

「えっ、あ……」