そこから幾度とミアの指示が通るように、何度も手綱を握りし直しては、躾を試みた。

 引っ張るようなら、無理に抵抗して引っ張るのではなく、一度立ち止まってみると転びそうになるミアを見て、フェンリルは力を緩め進むのを止める。

 止まってくれたことに対して体を撫で、目一杯に褒めると、満更でもないと小さく尻尾を振るが、すぐさま毛を逆立てる。

 繰り返すミアに、半ば諦めがついたのか騎士達が昼の休憩がてらに覗きに来た頃には、フェンリルはミアの隣を守るようにして歩いていた。



「いい子。やっぱりあなたは賢い子ね!」



 何度目の褒め言葉かもよく分からない言葉に、フェンリルはふんっと鼻を鳴らす。

 指示が入るようになったフェンリルを檻の中へと誘導し、ご褒美におやつを与えると嗜むように上品に頬張ってくれた。

 自分も休憩に入ろうと支度を整えていると、獣舎の扉が叩かれ、思わず肩を震わせた。またリヒトが尋ねてきたらどうしようと、身構えていると柔らかい声が掛けられる。



「ミアちゃん。ご苦労さま」



 振り返ると獣舎の入口に立っていたのは、一匹の全身深緑の毛で覆われた可愛らしい犬のような魔獣を連れたユネスだった。