鳴瀬(なるせ) 羽奈(はな)、中学二年生。

 現在、大ピンチの状況に陥っています。

「あー、ごめんな、親が開けちゃったみたい。うん、もう大丈夫」

 私の視線の先で椅子に座って、ノートパソコンの画面に向かって、にこやかにそう言ったのは、やわらかな茶髪の猫っ毛をした男子。

 私はその様子を、じっとして見守るしかない。

 心臓がばくばくする。胸から飛び出しそうだ。

「でも今日はちょっと音響が良くないから、音質がいつもより劣るかも。悪いけど許してくれよな!」

 そこで、ちらっと彼から私のほうへ視線がやってきてどきっとした。

 部屋のすみに座った姿勢で、ぱっと口をふさぐ。

 こくこくとうなずいた。

(大丈夫。静かにしてます)

 彼はその様子を見て満足したように、にこっと笑う。

 私の胸はまたどきんと跳ねたけれど、ちょっと恐ろしくもなった。

 変な音を立てたりしたら、怒られてしまうだろう。

 いや、怒られるどころじゃない。

 配信を見ている視聴者に「同じ家に女の子が暮らしている」と知られてしまうかもしれない。

 それは彼にとっても私にとっても、だいぶ困ることなのだ。

 私は心臓をばくばくさせながら、視線の先でにこやかにトークをしている彼・志摩(しま) 出雲(いずも)くんを見つめているしかなかったのである。



 なにしろ今、この出雲くんは、出雲くんであって、出雲くんではない。

 私の部屋という場所で、ノートパソコンに向かってにこにこトークをしている彼は、中学生Vtober(ぶいとーばー)

IZU(いず)』という名前のアバターに入っている彼は、中高生の女子に大人気なんだから。