俺はずっと、後悔してる。
 あの日、なんで彼女に何も伝えなかったのか。これは、俺が消防士になってすぐの頃のことだ。


 ***

「理子(ことこ)、帰りは迎え行くから連絡して」
「うん、ありがとう……じゃあ行ってくる」
 まだまだ消防士の駆け出しだった頃、俺には婚約していた彼女・理子がいた。同棲もしていた。
 彼女は俺の夢を応援してくれて、毎日一緒にいるのが当たり前で。この日だって、いつもと変わらない“当たり前”のはずだった。仕事場に着くと、すぐに出動要請が鳴り響いた。
『山内! 爆発事故だ』
『え、爆発事故……』
『ああ、場所は─︎─︎─︎』
 え? 俺、朝そこに理子を送った。その爆発事故の現場は、理子の勤務している会社だった。
 俺は、先輩に連れられその会社に向かったが……。朝見た高い立派なビルじゃない。
 そこは、悲惨な場所で同じ場所に見えなかった。
「山内、状況確認に行くぞ」
「は、はいっ」
 けど、俺は消防士だ。それにきっと大丈夫だ……きっと避難している。警察から説明を受け、先輩の後をついてまだ残されている人の救助に向かう。
「山内、俺らは4階だ……デザイン課に3名いる。軽症者2名、重傷者1名……骨折しているかもしれないと聞いた」
「……デザイン、課……」
『私ね、念願のデザイン課に行くことになったんだ〜』
「……おい、山内っ!!」
 先輩に叫ばれ、ハッとした……きっと大丈夫だと信じて俺は4階に向かった。