翌日のお昼休み。
 前の授業の教科書を片付けていると「ちぃちゃ〜ん!」と手を振ってやって来た。
「あ……亜樹くんっ」
「迎えに来たよ」
 私は、お弁当と亜樹くん用お弁当を持ち菜央に声掛けて彼を追った。廊下に出て、人気が少ない場所に来ると亜樹くんの手が繋がれる。
「……屋上でいい?」
「う、うんっ……大丈夫です。」
 屋上に着くまで手は握られたままだった。屋上の扉を開けると、先客は少なくて少し緊張した。
「そうだ、お弁当……とこれクッキーです」
「えっ!? クッキーまで? 俺のために……?」
「うん、味はきっと大丈夫だと思う。家族にも味見して貰ったから」
 お礼するためにクッキーを朝早起きして、お母さんとお父さんに味見して貰った……美味しいって言ってくれたから多分大丈夫なはず。
「めちゃくちゃ嬉しい……ちぃちゃん、名前で呼んでくれてありがとう」
「あ、うん……お礼の中の、ひとつだったでしょ?」
 ――そう、昨日の帰り道。
『お願いがあるんだけど』
『うん?』
『俺のこと、亜樹って……名前で読んで欲しい。お礼、ってことで』
 お礼としてそうお願いされてしまったら、聞かないわけにはいかなかった。
そんなかんじで、名前呼びの流れになったんだよね。
「ちぃちゃん、料理めちゃくちゃ上手いね! ……噂通りだ」
「え?」
「調理実習の課題料理がすげー美味かったって」
 え!? 何その噂……全く、私知らない。何で調理実習な訳?
「それはどこからの情報なの?」
「俺も詳しくはないんだけど……同じクラスの奴らが騒いでた」
「そ、そうなんだ」
 苦笑いしかできない。本当にどこの情報かわからなくてモヤモヤする。その後亜樹くんは綺麗にお弁当を食べてくれた。今更だけど何も彼のこと知らなくて申し訳なくなった。