「珍しいな、千紘が話なんて……」
「うん、そうだね。」
 別れたいって言ったら喜ぶかな……好きな人の場所に居られるから。私じゃない、相応しい女の子と。
「部屋行くか」
「大丈夫……ここでいい。すぐ終わる、から」
「……? 千紘?」
 深呼吸をして朝陽をみた。いつもみたいに優しい目でこっちを見るから決心が揺らぎそうだ。だけど、言わなきゃ……。
「……朝陽」
「ん?」
「もう、さ。私たち、終わりにしよう」
「は? どういう……」
 私は朝陽の言葉を遮り、朝陽の目を見てはっきりと伝えた。
「今までごめん……私と、別れてください」
「千紘っ……? 何言って……」
「私なんて、朝陽には釣り合わない……から。朝陽だって、私じゃない誰かといた方がいいでしょ?」
 私といるより、あの喫茶店にいた綺麗な女性と一緒にいた方が幸せになれると思うから。
「なんだよ、それ……」
「じゃあ……私と何のために付き合ってるの?」
「好きだからに決まってるじゃん」
「嘘、付かないでよ。私知ってるんだよ。朝陽が、私と責任と義務感で一緒にいることを決めたこと」
 それを言えば朝陽は唖然としている。
「千紘、なんで……」
「……あの事故の後、病室の外でお母さんたちと話す声が聞こえたから」
 朝陽は動揺していて、何も言えない感じだった。
「終わりにしよう、朝陽。解放する……もう私は大丈夫だから、朝陽が幸せな道を選んでください」
「俺は、千紘といることがっ」
 朝陽のカバンの中に婚姻届が見えた。
「……朝陽は好きな人と幸せになってほしい」
「待って、千紘!!」
 朝陽に腕を掴まれ、抱き寄せられる。
「……朝陽、離してっ」
「離さない、離したら千紘行っちゃうでしょ?」
 朝陽の体を離そうとするけど、男の人の力には敵わなくて……離れることはできない。
「朝陽っ……今言ったこと覚えてる?」
「俺は別れる気ない」
「私は別れたい……だから、んっ」
 キス……された? 私が何かを考える暇も与えないと言うかのようにソファへ押し倒した。
「あさ、ひ……だ、め……っ」
「……ちぃは、耳が弱いよな。」
 朝陽は、私の耳をゆっくり触れていく。その触れた指が私を熱くさせる。
「……やめ、っ……んんっ」
「……やめないよ。俺はもう一度、千紘に好きになってもらいたい」
 好きだよ、本当は。
「――愛してるよ、千紘」
 だけど、もう……。
 あの後、結局彼にベッドまで連れられて朝陽に抱かれた。
『好きだよ、千紘……』
 朝陽の甘い声が今も耳に残ってる……彼に甘えたい。大好きだって、伝えたかった。
 床に散らかっている服を着る。体には彼の付けたキスマークが鎖骨の辺りにあってそれに触れた。そして、彼に貰ったペアリングを彼の机に置いた。
「朝陽、ごめんね……」
 隣で寝ている彼を見て、彼の額に触れるようなキスをした。
「……さよなら、朝陽。」
 そう呟いてから、部屋を出た。あぁ、もう来ることはないんだなって思えば思うほど涙が溢れてしまいそうだ。
 お母さんたちに声かけて、もう学校に行こうかな。これからは朝陽に会わないようにずらして行こう。
 そんなことを考えながら家に入った。