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「千紘……大丈夫じゃないよね」
「うん。だけど、いいの……いつかはこうなるってわかってたから…」
 分かってた……分かってたのに。実際、目で見ると辛い。
「……え、どういうこと?」
 いつか、朝陽と終わりにしなきゃいけない時が来るんだって……。
 全てがスローモーションのように、見える。この世界に私はいないみたい。
「……ごめん、菜央。私、帰るっ」
「千紘……っ!」
 私は、駅でも家でもない方向に走り出した。もう何がなんだかわからないや。
そんな気持ちが伝わったのか雨がポツリ、ポツリと降りだした。
 傘持ってないや…そもそも雨の予報だったっけ。虚しい……。
制服が濡れて気持ち悪い。
「千紘……っ足、早い……」
「……菜央、私どうしたらいいかな」
「千紘、私の家来ない?」
 え? 菜央のお家?
「話なら、聞くからさ……ね?」




「まずはシャワー浴びなよ。私のスウェット貸すから」
「うん、ごめんね。」
 菜央の家に来てからすぐに浴室へ彼女に連れて行かれた。
「部屋分かるよね? でたら部屋来てよ。あ、このハンガーこれ使って。」
「……ありがとう」
「全然いいよ、タオルこれね。じゃあゆっくりあったまってよ。」
 菜央が浴室から出ていくとスカートとブラウスを脱いだ。ブラウスを脱げば目立つ傷痕……こんなのがなきゃ、朝陽は私といなくても良かったのに。
 シャワーを浴びて、メイクを落とした。すっぴんの私は……子どもだ。今日、切り出そうか。そしたら朝陽は楽になるかな。もしかして、待ってるのかもしれない。
 私から終わらせてくれる、のを。
「菜央、シャワーありがとう。」
「あったまれた?ホットチョコ作ったんだ〜」
 菜央は、ルームウェアに着替えてマグカップ二つをテーブルに置いて待っていてくれた。
「シュークリームもあったし持ってきちゃった。」
「え、いいの?」
「うん、いいんだよー!話す前に食べよ。」
 ケーキ屋のシュークリームだよね……? めちゃくちゃ高そうなんだけど。戸惑っていると、隣で菜央が「美味し〜」って言って幸せそうに食べていて私もシュークリームを一口食べた。
「美味しいでしょ?お母さんが持ってきてくれた」
「え、わざわざ?」
「ケーキ屋で働いてるんだよ。だから、売り物にならない奴持ち帰って来るんだ〜」
 初めて知ったんだけど……
「私も言わなかったし」
 シュークリームを食べ終わり、ホットチョコを飲み菜央の目を見て言った。
「……あのね実は。私と朝陽両思いじゃないんだ」
 初めて人に話すかもしれない。――私たちの関係。
「菜央は、知ってるかな?小学生の時起きたスーパーの爆発事故。」
 私が小学生で、朝陽が高校生だった頃。
「テレビで見たかなって程度だけど……なんで?」
「私ね、そのスーパーにいたの」
 少し俯いて私は、そう言った。
「え……?」
 すると菜央は驚いていて固まっている。そりゃそうだ。あの事故は連日ニュースで放送されていたから。
 私はあの爆発事故に遭った被害者だ。あの事故で亡くなった人もいる大きな爆発事故。
「私はレスキュー隊の人が来てくれて奇跡的に死ななかったんだけど、……火傷したの。それは、今も傷痕が残ってる」
「……え? きずあと?
 言葉もないか……急にそんな話されてもって感じだよね。だから、借りたスウェットを脱いだ。
 見せるなんて、したこと今までしたことなかった。だけど、見せないとわからないと思った。
「この傷痕のせいで……朝陽を縛ってる。私が爆発事故に遭ったのは自分のせいだと責任を感じてるの」
「え……なん、で……? 責任を?」
「あの日――」
 そう。夏休みに入った暑いあの日。
 私と朝陽は私の家でゲームをして遊んでいた。
「なぁ、千紘。アイス食べたくね?」
「うん! 食べたい!」
「じゃあ、ジャンケンで負けた人が買いに行くってことで!」
 もちろん負けた私は、朝陽にお金を貰ってスーパーへと向かった。
 スーパーまでは十五分くらい歩けば行ける距離で、どのアイスを買おうかるんるんでお店に入ったら御目当てのアイスコーナーへ直行した。アイスを持って、会計へ向かって歩いていた――私の記憶はそこで終わっていた。
 気づいたら病院のベッドで寝ていたのだ。病室の外で、聞こえた朝陽とお母さんの声。
 お母さんは、叫んでいて……朝陽が謝ってる声が聞こえた。
『――もう、傷痕は消えないのよっ……あの子はずっと傷痕と一緒に生きていかなきゃいけないっ! もう長袖しか着れない……なんてっ』
『……俺が責任をとります。』
『責任っ? 責任取るだなんて……いい加減なこと言わないでっ』
『俺は……俺が千紘を守ります。幸せにします。千紘のために生きていきます』


「あの頃のわたしには朝陽の言葉の意味が分からなかった。だけど、その日からずっと一緒にいたの……朝陽は」
 急に一緒にいる時間が増えていった。彼はいつも練習を頑張っていたのに、大好きだったサッカーを辞めてしまった。
 そんなに本気じゃなかった、と言って。
「朝陽は高校卒業してすぐに、教習所に行って免許を取って、責任を感じて付き合ったの私と」
「でも、私は二人見ててそんな風に見えないよ」
「朝陽は優しいからね……私、朝陽と終わりにする。別れるよ」
 もういい加減、朝陽を解放しなきゃいけない。
「……そっか。千紘がそう決めたなら応援するよ。だけど、後悔のないようにね。」
「ありがとう、菜央」
「じゃあ、楽しい話しようよ。休みの日、買い物の計画立てよ!」
 菜央に聞いてもらえて少しだけ楽になった気がする。休みの計画を立てて、その後は1人歩いて家まで帰った。
 帰り道の途中、朝陽から着信あったけど電源を切った。ちゃんと話せますように、と思いながら帰った。
「朝陽、話があるの」
 インターホンを押すと、朝陽が出てきた。さっき電話に出なかったことを不思議に思いながら「まぁ、入って」と家に招かれ入った。