その日、帰ってきた行正に、咲子はコーヒーを出した。
「どうぞ。
半分、水出しコーヒーです」
「水出しコーヒー?
いきなり最初から凝ったことをするんだな。
冷やしコーヒーじゃないのか?」
と行正は訝しげだった。
明治に氷コーヒーとして登場したアイスコーヒーは、大正時代には、喫茶店のメニューとして定着し、冷やしコーヒーと呼ばれるようになっていた。
だが、冷やしコーヒーは瓶に詰めたコーヒーを、井戸水や氷で冷やしたものなので、咲子が作ったものとは違う。
そこで、行正が気づいたように言ってきた。
「いや、待て。
何故、『半分』なんだ。
さては、なにか失敗したんだな……」
と言われ、咲子は白状する。



