大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

 


 そして、まったく、ほのぼのしないまま、親族へのお披露目が行われ、行正と同じ家に住む日がやってきた。

 身内よりもばあやが咲子がいなくなるのを悲しがり、咲子の手を温かい皺だらけの手で握って言う。

「いつでも、ばあやを呼んでくださいよ。
 ばあやは何処からでも咲子さまのところに駆けつけますからね」

 その後ろに立つ弥生子が言う。

「まあ、暇なときはいつでも呼びなさいよ。
 遊びに行くとき、あんたも入れてあげるから」

 真衣子が言う。

「美味しいものを見つけたときはいつでも呼んでよ。
 食べに行ってあげるから」

 なんだろう。
 ばあやの言葉が一番あったかい、と思いながら、咲子は迎えに来た行正に連れられ、あの屋敷に嫁入りした。