大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

 ……でもまあ、しゃべらなくても私には、人の心が読めるのだけど。

 まあ、ちょっとだけだけど、と思ったとき、仲人のおばさんが言った。

「では、咲子さん、行正さんになにか訊きたいことはない?
 これからの結婚生活について、いろいろと不安もあるでしょう?」

 不安だらけですよ、とぎゅっと咲子はテーブルの下の見えない場所で拳を作った。

 咲子は三条行正の冷徹そうな顔を見つめてみた。

 ――上官の頼みで仕方なく来たが、めんどくさいな。

 そう彼の心の声が聞こえたとき、つい、視線をそらしていた。

 溜息をつかれる。

 だが、怖い物見たさか、咲子はまた、チラと行正の顔を見てしまう。

 ――しかも、なんだ、この着物ばかり立派な冴えない娘は。