大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

「私が向こうの話を聞いて。

 きいっ、うらやましいっ。
 絶対、私も英吉利行ってやるっ!
 って、悔しがらせて欲しかったわ。

 そしたら、めんどくさい長い航海に旅立つ、いい踏ん切りになったのに」

「うらやましい話なんて、特にありませんわ。

 庭園や建物などは、英国の長い歴史を感じさせるもので。
 とても素晴らしかったですけれど。

 滞在中、たいして変わったこともなかったですし」

 ああ、でも、そういえば、と文子は小首を傾げながら言った。

「あちらのお屋敷に伺ったとき、ルイスさんが存在さえ知らなかったとかいう許嫁の方が現れましたわね」

 それは、たいしたことですよっ!?
と咲子たちは身を乗り出したが。

 文子はそんなことは想定内だったようで、特に気にしていないようだった。

 ま、まあ、話が上手くまとまったから、ここにこうしているんだろうしな、と思ったとき、文子の側にいたルイスが、HAHAHAHAHA……と笑って言った。

「なにも変わらなくていいんですよ。
 文子サンは、このままでいいんです」

 膝に置いていた文子の手の上にルイスは自らの手を重ねる。