大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

 実は、
「この屋敷は気に入ったか」
「このベッドは気に入ったか」
「使用人たちは気に入ったか」
と訊いたのは、ただの長々とした前振りだった。

 ほんとうは、
「俺のことは気に入ったか?」
と訊きたかったのだ。

 ――駄目だっ。

 俺は不器用だから。
 自分の気持ちを言葉で表すなんてできない。

 男らしく。

 そして、軍人らしく。

 行動で示そう!

 だが、婦女子を怯えさせたままというのは、いかんな。

 行正は、咲子を強く抱き寄せたまま、襲う前に礼儀として、ちゃんと声をかけた。

「怯えるな。
 悪いようにはしない」

『それは活動写真で、よく悪党が吐いている台詞ではっ?』
と咲子が思っているとも知らずに、これでよし、と行正は強く咲子に口づけた。