自分が寝室を訪れると、咲子は顔面蒼白になっていた。

 その新妻らしい強張(こわば)り方が愛らしいっ、と行正は感激していた。

 そんな咲子を見ながら、行正は訊く。

「この屋敷は気に入ったか」
「は、はい」

「このベッドは気に入ったか」
「は、はい」

「使用人たちは気に入ったか」
「はい」

 行正はそこで沈黙した。

 咲子が怯えながら、自分を見つめてくる。

 なにやら、ゾクゾクする瞳だ、と思いながら、行正は咲子の腰に当てた手に力を込め、強く引き寄せた。

 咲子が、ひっ、と身構える。

 その怯えるさまも愛らしい。

 一生、幸せにするぞ、咲子っ。

 そのとき、咲子が、
(はら)ませて捨てよう』
という、まったく違う自分の心の声を聞いているとも知らずに、行正は悩んでいた。