大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

「今更、そんなに緊張してどうする」
と行正に言われたが、咲子は俯き、真っ赤になって手を振る。

「でもあのっ。
 好きだとか言われたら、照れてしまってっ。

 緊張のあまり、なにもできそうにありませんっ」

「――待て。
 なにかするのは俺の方だ」

 ……そうでしたね、と思いながら、顔を上げて咲子は言う。

「私、もう人の心を読む力はいりません。
 あなたのすべてを信じます」

 そう見つめてみたが、行正は呆れたように言う。

「いや……、最初からないよな、それ」

「ですよね……」
と言った咲子に行正はちょっと笑ったあとで、口づけてきた。

 また聞こえるはずのない行正の心の声が聞こえてくる。