大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

 


 その夜、寝室で、床に入る前、咲子は行正に言われた。

「お前がまた俺の心の声が聞こえたとか言って、莫迦なことを言い出さないように、一度だけ言ってやる。

 俺は、お前が好きだ。
 このまま一生を共にしたいと思っている」

「何故、棒読みなんですか……」

 そう咲子は言ったが、行正は無表情に、
「恥ずかしいからだ」
と言う。

 いや、だからですね。
 あなたのその表情に出ないっぷりが怖くって。

 この人、隙あらば、邪魔な私を斬り殺そうとしてるんじゃ?
 って、疑ってしまってたんですよっ。

 咲子はそう怯えていたが、行正はいつものように咲子の頬に触れ、口づけてくる。

 ぱっと離れて咲子は言った。

「なにか、こう……ドキドキします」

 キスするのは初めてではないのに、そんなことを言い出す咲子に行正が眉をひそめて問うてきた。

「……今までしてなかったのか」

「はい、怖くて」
 そう咲子は素直に認めた。

 行正が恐ろしくて、ときめくどころではなかったのだ。