大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

「そろそろ籍を入れるか」
「えっ? 入れるんですかっ?」

「……嫌なのか。

 前、抹茶事件のとき、正式に妻となったら殺されるとか阿呆なことを言っていたが、それでか」

「いえ、普通に夫婦となると、緊張感がなくなる気がするじゃないですか。
 緊張感がなくなって、馴れ合うようになると、飽きられて捨てられると聞きました」

「……今度はどの雑誌だ?」

「雑誌じゃなくて、美世子さんですよ」

「お前、ロクな友だちいないな……」

「いや~、みなさん、いろいろ教えてくださる、いい方たちばっかりですよー」

「……ごちゃごちゃ言って、籍入れないのなら、(はら)ませて捨てるぞ」

「あっ、やっぱりそう思ってるんじゃないですかっ。
 私、やっぱり、サトリだったんですよーっ」

 阿呆か、とまだ明るい空を見ながら、行正は呆れたように言う。

 ぎゅっと強く咲子の手を握ったまま歩いていった。