大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

 


 行正は、ちんまり手を合わせる咲子を見ながら、

 阿呆なところのある嫁だが、こいつと一生を共にできそうでよかった、と思っていた。

 それにしても、こいつがほんとうにサトリでなくてよかった。

 俺がずっと心の中で叫んでいることが聞こえなくてよかった。

 恥ずかしいから……と思ったとき、咲子と視線が合った。

 ――お前が好きだ。
 大好きだ!

 何故か咲子は、ちょっと驚いたような顔をした。

 だが、すぐに、なにかを誤魔化すように笑う。

 その間抜けな顔を見ながら、咲子らしくて可愛いなと思った。

「行くか」
「はい」

 強引に手をつなぐというか、つかむと、咲子は恥ずかしそうに俯いたが、振りほどきはしなかった。

 伊藤家に待たせている馬車に向かい歩く。