大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

「そうそう。
 小さなあなたが、
『お義母さま、今日はお紅茶ですか?』
とか女中に淹れされて運んできてくれるから、

『あら、よくわかったわね。
 ありがとう』
 って、違ってても言ってたわ。

 なんかちょこちょこ運んできてくれるのが可愛くてね」

 ……そうだったのかっ、と咲子が衝撃を受けたとき、ばあやが苦笑いして言った。

「そうだったのですか。

 実は私も、咲子さまが、
『ばあや、今日はカステラの気分?』
とかおっしゃるときがあって。

 違っていても、そう訊いてくださる咲子さまがお可愛らしかったので。

『そうです。
 よくおわかりですね』
 って言ってたんですよ」

「……咲子」
と行正が呼びかけてくる。

「はい」

「お前のサトリだという妄想はみんなのやさしさで出来てたんだな」

 あ、ありがとうございますっ、と咲子は、みんなに土下座する勢いで謝り、礼を言った。