「すみません。
正式なご挨拶が遅くなりまして」
伊藤家よりはるかに贅の限りを尽くした屋敷で、美佳子に行正が挨拶する。
「あら、別にいいのよ。
私はあの家を出た身ですからね」
伊太利亜から取り寄せたという、柔らかすぎない、座り心地の良いソファに行正と二人、並んで座る。
行正が咲子を見た。
咲子がこくりと頷くと、行正が話し出す。
「ところで、あの、実は咲子は長い間、自分には人の心が読めると思っていたようなのですが。
なにか思い当たる節はありますか」
「咲子に人の心が?」
優雅に笑ったあとで、美佳子は言う。
「ああ、でも、そういえば……
読めるのかなと思ったことはあるわね」
あるんですかっ? と二人は身を乗り出した。



