大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

「ともかく、あなたに行正さまはふさわしくないわ。
 早々に三条家を叩き出されないようにねっ。

 それから、帰りに祠の場所教えなさいよっ」

「……あ、えーと。
 じゃあ、一緒に帰りましょうか」
と咲子が言うと、

「約束よっ」
と怒ったように言い、美世子は行ってしまった。

 あのー、でも、美世子さん。
 叩き出されるもなにも。

 実は、我々の結婚は、籍を入れないままのお試し婚なのですが――。

 姑が嫁を追い出してしまうことが多かった明治。

 簡単に叩き出せないよう、法律を厳しくしてしまったせいで。

 まず、籍を入れずに結婚させる、お試し婚が増えてしまった。

 お試し婚で嫁にふさわしくないと判断されたら、その婚姻は解消されてしまう。

 この、嫁にとっては不利とも言えるお試し婚は、大正になっても、まだ横行していた。

 だが、まあ、今回はそういうのでなく。

「お互い、一緒にいてこれは無理だな、と思ったら、やめればいいじゃない」
という静女の軽い提案からはじまったことだった。