大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

「笑顔の素敵なおじいちゃんなんですっ」
とユキ子が言った。

「そうですっ。
 ラッパを拭きながら、笑顔の素敵なおじいちゃんが、
『豆腐はいかがですか?』
 って照れながら言うんですよっ。

 買わないわけにはいかないじゃないですかっ」

 そう咲子が熱く語る。

「だから、いらない日でもつい買ってしまうんですっ」

「それで、買わない日は、この時刻には外をうろつかないことにしてるんですよ~っ」

 二人に畳みかけるように言われたそのとき、パーフーと豆腐屋さんのラッパの音がした。

 逃げそびれたっ、という顔を二人がする。

 莫迦なことを、買わなければいいんじゃないか。

 揉めながら、門のところまで来てしまっていた行正たちの前で、自転車に乗った豆腐屋さんがとまる。

 あたたかい夕焼けの光の中、しわしわの笑顔でおじいさんが照れたように笑った。

「あの、お豆腐、いかがですかいの?」