「行正さまとあなたが結婚だなんて。
しかも、お姑さんやしきたりに振り回されることなく、二人だけで暮らすとかっ。
なんで、あなたにばっかり、そんな幸運が訪れるのよっ。
あなたがなんのいいことをしたって言うのっ?」
……なんのいいこと?
いやまあ、この縁談が幸運かどうかはともかくとして。
いいことねえ、と咲子はしばし考える。
「あっ、そういえば、私、学校来るとき、いつも通り道にある小さな祠に手を合わせていますね」
伊藤家は女学校のすぐ近くなので、咲子はいつも、ばあやと歩いて学校まで通っていた。
「その祠の場所を教えなさいよっ」
えっ?
でも、あの祠、確か私、ばあやに言われて、
家内安全
健康第一
と拝んでいるだけなので、縁談とは関係ない気がするのですが……と咲子が思ったとき。
静かに横に立っていた、おさげ髪に大きな紺のリボンをつけた少女が小首を傾げながら語り出した。
咲子と仲のいい浅野家の令嬢、文子だ。
「あのー、でも、そもそも美世子さんは、嫁ぎ先がすでにお決まりなのでは?」
しかも、お姑さんやしきたりに振り回されることなく、二人だけで暮らすとかっ。
なんで、あなたにばっかり、そんな幸運が訪れるのよっ。
あなたがなんのいいことをしたって言うのっ?」
……なんのいいこと?
いやまあ、この縁談が幸運かどうかはともかくとして。
いいことねえ、と咲子はしばし考える。
「あっ、そういえば、私、学校来るとき、いつも通り道にある小さな祠に手を合わせていますね」
伊藤家は女学校のすぐ近くなので、咲子はいつも、ばあやと歩いて学校まで通っていた。
「その祠の場所を教えなさいよっ」
えっ?
でも、あの祠、確か私、ばあやに言われて、
家内安全
健康第一
と拝んでいるだけなので、縁談とは関係ない気がするのですが……と咲子が思ったとき。
静かに横に立っていた、おさげ髪に大きな紺のリボンをつけた少女が小首を傾げながら語り出した。
咲子と仲のいい浅野家の令嬢、文子だ。
「あのー、でも、そもそも美世子さんは、嫁ぎ先がすでにお決まりなのでは?」



