大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

 

 お手洗いに行き、弥生子に帯を直してもらい、
「しっかりしなさいよ」
となにをしっかりしたらいいのかわからないが言われながら、咲子はくすんだ紅い絨毯の敷かれた廊下に出た。

 弥生子はロビーで合流した静女や上官夫人と話していて。
 父は行正の父と話している。

 わ、私はどうすれば?

 行正さんは何処ですかっ。

 咲子が行正を探してウロついていると、行正はもう外に出ていた。

 上官といい景色を眺めながら、二人で紙巻き煙草を吸っている。

 厳しい顔つきの上官だが、公爵家の見合い話をまとめるという大仕事を成し遂げたあとだからか、ホッとしたように笑っていた。

「どうかね、行正くん。
 伊藤家のお嬢さんは」

 どうせ、断れない見合いだったのだろうが。

 一応、その意見を訊いてみたいと思ったようだった。