「あの、私、お気に入りのピアノがあるのですけれど。
 こちらに運んでもよろしいですか?」

 日当たりの良いサンルームで、自分を振り向き、満面の笑顔で咲子が言う。

 ――なんと可愛らしいのだっ。

 ほんとうにお前を俺の妻にしてもいいのかっ?

「あ、藤棚枯れちゃってますね。
 植え直してもらってもいいですか?」

 ――そんなところまで気が回るとはっ。

 なんと気の利く妻だっ。

 ほんとうにお前を俺の妻にしてもいいのかっ?

 そう思いながら、行正は無表情に頷く。

 無愛想な自分に咲子はちょっと怯えているようだったが。

 出会ってまだ数日しか経っていないのに、咲子を溺愛していることを知られる方が恥ずかしい。

 お前に俺のこの心の声が聞こえていなくてよかった――。

 心の底から行正はそう思っていた。